第7回 熱中症と暑さ指数について

【注意点】

※このコラムでは、労働安全衛生管理の観点から、熱中症予防に向けたの職場づくりをテーマにしています。熱中症発生時の症状や対応については、職場の産業医やかかりつけ医などの医師にご相談ください。

また、行政のHPでも情報が掲載されていますので、併せてご覧ください。

環境省HP「熱中症予防サイト」

http://www.wbgt.env.go.jp/

厚生労働省HP「熱中症予防のための情報・資料サイト」

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/

 

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 熱中症のニュースを見ない日がないくらい、暑い日々が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。

 

 「熱中症」というと、炎天下の暑いところで激しい作業をしている人がなりやすい、というようなイメージを私も持っていたのですが、そういうわけでもないようです。

 

 確かに、こういった状況では、熱中症になる可能性は高いように思われます。

 

 今回のコラムでは、一見、熱中症になりそうにはない職場でも危険があるということを、「暑さ指数」から見ていきたいと思います。

 

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 日頃、職場で安全衛生管理をしていると、この時期「暑さ指数」という言葉よく聞きます。

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<環境省HPより> 

暑さ指数(WBGT)は、

 熱中症を予防することを目的として1954年にアメリカで提案された指標です。 単位は気温と同じ摂氏度(℃)で示されますが、その値は気温とは異なります。暑さ指数(WBGT)は人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れた指標です。

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 ・・・ちょっとわかりにくいですね。


短くまとめると、

 ①気温

 ②湿度

 ③輻射熱などの熱環境

を総合的に見て「暑さ」を決めている

という感じでしょうか。

※「輻射熱」とは…高温の物体が発する赤外線などの電磁波が、直接、低温の物体に熱を伝えることを「輻射」その熱を「輻射熱」といいます。

         例えば、太陽が照り付けて、肌をジリジリと焼かれるような状態をイメージしていただければと思います。

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 実際、「暑さ指数」は3つの要素を測定し、計算します。

 

①乾球温度(気温といえばこれを指します)

②湿球温度(濡らしたガーゼを巻いた温度計で測定し、乾球温度との相対的な差で湿度を計算するのに用います)

③黒球温度(黒い銅製の玉の中の温度計で輻射熱の影響を測定しています) 

 

 

 それぞれに対応する機器で測定された温度に、係数を掛けて算出したものが「暑さ指数(WBGT)」となります。

 

 環境省のHPには次の式が掲載されています。 

 「WBGT(℃) =0.7 × 湿球温度 + 0.2× 黒球温度+0.1×乾球温度」(屋外における暑さ指数の計算式)

 「WBGT(℃) =0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度」(屋内における暑さ指数の計算式)

  (あくまで私見ですが、屋内では乾球温度と黒球温度の差があまりないことが推測されるので、屋内における暑さ指数の式は、黒球温度と乾球温度を区別せず、黒球温度のみを計算式にあてはめ、係数を0.3としているのではないかと思われます)

 

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 具体例をあげてみましょう。

 

・屋内の作業場で、気温は28度でした(節電ですね)。

・湿度は85%あります(すごい湿度ですね)。

・無風です(扇風機が欲しいですね)。

 

・・・事務室などでも意外とありそうな環境です。

 

 屋内における暑さ指数の計算には2つの要素(湿球温度と黒球温度)を用いるとされていました。

 

 これを上述の計算式(屋内)にあてはめて暑さ指数を計算してみます。

 

 

 0.7×26℃(湿球温度)+0.3×28℃(黒球温度)=26.6℃(湿球温度は、温度計付属の相対湿度一覧表で逆算しました。)

  

つまり、暑さ指数は「26.6℃」となります。

これを環境省の指針に当てはめると、日常生活レベルであっても『警戒』レベルです

 

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なお、「湿球温度や黒球温度なんて測る器具なんてない」もしくは「めんどくさい」

なんて場合には、地域ごとに環境省が予測した「暑さ指数」が掲載されています。

<環境省HP「暑さ指数(WBGT)の実況と予測」>(※リンク先は浜松市の場合)

http://www.wbgt.env.go.jp/graph_ref_td.php?region=05&prefecture=50&point=50456

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 以上のことから、例えば、エアコンを効かせた事務室内でも、熱中症になることは十分に考えられることだといえます。

 

 ここで大切なのは「暑さ指数」はあくまで「目安」であるということです。

 熱中症の発症に関連する要素として、体調や作業している場所、それから個人差もあると思われます。

 

 個人差があるのであれば、社員自身が早めに自分の体調の異変に気付くことも大事です。

 

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あらためて、熱中症の予防のために取り組みたいことを書き出してみたいと思います。

 

<社員としてできること> 

○室内であれば室温・風量の調整(職場ごとに相談しながら)

○普段の体調管理(睡眠をしっかり取る、深酒しない)

○服装の管理(風通しが良く、白や薄い色の服装、屋外では帽子等の着用)

○こまめな休憩

○水分・塩分の摂取

 

<会社として取り組みたいこと>

○自覚症状や初期対応などの社員教育

○少し休める涼しい場所の確保

○給水設備・飲料水の確保(飲水の機会確保)

○必要に応じて塩飴等の配備 

 

 これらに加えて、熱中症に関する対応についても、日頃から職場の社員同士のコミュニケーションがとれていることは案外大切になってくるのかもしれません。

 

 他の社員の異変に気付いたり、声を掛けたりできる環境は、様々な危機の時に生かされてくると私は考えています。

 

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 厚労省では「自力で水が飲めない、意識がない場合は、すぐに救急車を呼びましょう!」とリーフレットで呼びかけています。

 

 重篤化すれば命にも関わります。

 

 熱中症予防に関する啓発活動は、社員の命を守るためにも重要なことと思います。

 しかし、社員自身の体調は、社員自身にしかわかりません。

 

 熱中症予防も、会社や担当者が取り組んでも意味をなさず、社員一人ひとりが、自覚と興味をもって取り組むことが不可欠です。

 

 業務が多忙で、自分の健康をおろそかにしてしまうという話もよく聴かれますが、熱中症についても自分のこととして捉え、予防対策に取り組んでいっていただけることを願うばかりです。

 

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※なお、労働安全衛生規則においては、事業主に暑熱・多湿の作業場のおける温湿度調節措置や多量の発汗を伴う作業場における塩・飲料水の配備が義務付けられています。

<参考:労働安全衛生規則>

第六百六条 事業者は、暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場で、有害のおそれがあるものについては、冷房、暖房、通風等適当な温湿度調節の措置を講じなければならない。

第六百十七条 事業者は、多量の発汗を伴う作業場においては、労働者に与えるために、塩及び飲料水を備えなければならない。

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<参考>

環境省HP「熱中症予防サイト」

http://www.wbgt.env.go.jp/

厚生労働省HP「熱中症予防のための情報・資料サイト」

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/