第2回 メンタルヘルス不調者対応について

 

前回、職場のメンタルヘルスケアには日頃から従業員とコミュニケーションを取るなど、体調に気を配ることが大事だということを書きました。

 

しかしながら、職場の上司や同僚は医者ではないので、見ただけや話だけでメンタルヘルスに不調を来たしているかどうかを判定することは極めて難しいと思います。

また、従業員を病気と決めつけることには不信を買ったり、揉め事の原因になることもあります。

 

メンタルヘルス不調を判断する視点として重要なのが「事例性」と「疾病性」であるといわれています。

 

このうち、会社が従業員のメンタルヘルス管理において確認すべきは「事例性」という部分です。

 

「疾病性」とは、精神疾患等、病気の有無や病気が原因となってあらわれる症状のことです。食欲不振、入眠困難、希死念慮、妄想、幻聴など、原因となる病気によっても様々です。

 

「事例性」というのは、簡単に言えば勤怠や日頃の言動など、仕事や日常生活の様子です。

 

「遅刻が多くなった」、「無断欠勤を度々するようになった」、「身だしなみが極端に乱れている」、「最近よく上司に大声で怒声を浴びせる」、「以前と比べて仕事上ののミスが多くなった」・・・など、このほかにもいろいろあるかとは思いますが、以前と様子が変わったと見られる出来事が挙げられます。

 

例えば、最近怠けているようにみえたけど実は病気だった、ということもあります

 

ただ、「お前は病気かもしれないから病院に行け」というのは厳禁です。

 

病識(病気である自覚)がない従業員に病院にいくことを強要するなど一方的な対応をすると、かなりの確率で炎上します。

 

従業員からしてみれば「会社にとって自分は邪魔な存在なんだ」と誤解するかもしれませんし、場合によっては不安を増大させるなど、病状を悪化させることにもなりかねません。

 

このとき、「遅刻が多い」という現在の状態よりも「以前と比べて」という時系列での変化というところに着目すると、話がしやすいかと思います。

 

そうすると、「最近、前に比べて遅刻が多くなったけど、何か体調が悪いのでは?」

あるいは、「このごろミスが多いけど、家ではちゃんと休めてる?」

というような声かけもできるのではないでしょうか。

 

ただ、話し方については、声を掛ける上司や同僚と当該従業員との人間関係によって様々かと思いますので、絶対大丈夫と言えるような正解は無い、と思います。

 

このとき、会社について、就業規則や規程にあらかじめ根拠を定めておくことが、トラブルを防ぐためにも重要かと考えます。

(就業規則で「自己保健義務」について明確に定めることも必要と考えますが、詳細は別途書くとこができればと思います。)

 

それから、例えば病院に行くことを本人が決めたとしても、いきなり「精神科」に行く、というのはハードルが高いという話も多いです。

 

最近は「○○メンタルクリニック」という、いくらか名前がソフトな印象の精神科も増えています。

 

しかしながら、名前のハードルを乗り越えたとしても、精神科も「○○メンタルクリニック」も、予約がなかなか取れず、聞いた話では初診だと1か月待ちというところもあるようです。

 

そういうときには、まず、当該従業員の「かかりつけ医」で診察してもらうのもひとつの手です。

 

比較的多くの人が「ちょっと風邪になったときにかかる」ようなお医者さんとお付き合いがあるのではないかと思います。

おそらく、内科のお医者さんが多いかとは思いますが、症状が軽い場合には、その「かかりつけ医」で抗不安薬を処方してもらっただけでも落ち着く場合があります。

 

専門医にかかった方がいいという場合でも、「かかりつけ医」に紹介状を書いてもらうことで、精神科などの専門医の予約が取りやすくなるという話もききます。

また、紹介状があれば、大きめの総合病院で診察を受けることも可能になると考えられます。

 

他には、産業医がいる職場では産業医に診てもらったり、精神科ではなくても、心療内科や神経科でも精神疾患の薬を処方してもらえることがあります。

(※病院や医師によって様々な場合がありますので、参考程度にしてください。不調者対応をするときに必要な場合は、必ず医療機関等に確認をお願いします。)

 

いずれにしても、メンタルヘルス不調の疑われる従業員に対しては、管理者等は、従業員の心身を守ることを第一に考え、会社の都合などではなく「あなたのことを本当に心配しているんだ」ということをきちんと伝えて温かな態度で接することが、その後の当該従業員との対話をスムーズに行うためにも重要なことだと考えられます。

 

こういった対応のとき、当該従業員の家族の協力が得られるよう働きかけることも必要です。

 

病気で会社を休業することとなった時、通院や服薬、生活習慣の管理などで本人ができないことは家族の仕事となります。

病気で健康保険等、様々な手続きができない、または困難になることも考えられます。

そう行った場合、会社とのやりとりに家族の協力が得られれば、会社にとっての利点は大きいと考えられます。

 

 現実的には、病態や状況等によって難しい対応を求められることはあります。

しかし、きちんと初期対応しておけば難しい事案とならずに済んだのに、と後で思うこともままあります。

 

 

前回と同じような話ではありますが、初期対応がスムーズにいくよう、日頃からのコミュニケーションはやはり大切なのだと思います。

 

その上で、上述したような基本的な対応を行えれば、それほど間違った方向には行かないのでは、とは思いますが、本当にちょっとしたことでこじれてしまうこともありますので、「正解はない」ことと、目の前の従業員を尊重し、誠実に対応することが大切なのだと感じています。

 

対応については、こまめに記録を取っておくことで、経過について把握するとともに、職場復帰の際の参考資料とすることもできると考えられます。

 

(※注意:本文内に書かれた病気の症状は、精神疾患に限ったものではありません。しかしながら、事例性が深刻な状態になっているときは、メンタルヘルス不調者への対応と同様に内科や精神科など、まずは医療に繋げることが第一と考えられます。この場合においても、家族、産業医、かかりつけ医や専門医と連携を図ることでスムーズに対応できると考えられます。)